象 置物 1670-1690年頃

ドレスデン王室コレクションに輝く柿右衛門磁器

Cora Würmell(ドレスデン美術館陶磁器館 東アジア磁器部門キュレーター)

October 1, 2020

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18世紀初頭の創設以来、ドレスデン王室磁器コレクションの数千に及ぶすばらしい中国・日本製の陶磁器群の中でも、日本の西部に位置する有田でつくられる柿右衛門磁器は卓越した地位を占めていました。王が日本磁器を非常に好み絶賛していたことは、柿右衛門および柿右衛門様式の見事なコレクションを通じてのみならず、数多の伊万里磁器を保有したことからも明らかです。

これら東アジア産の独特な磁器は、当時の最も熱心な磁器愛好家のひとりであったザクセン選帝侯・兼ポーランド王のアウグスト強王(1670-1733)によって、ドレスデン日本宮殿という磁器の城を飾るために集められました。王は自分が“陶磁器病”という不治の病に罹っている、と公言するほどでした。

18世紀末までにおよそ29,000点の中国・日本磁器がドレスデンに伝わり、包括的に目録化されました。続く数世紀の間にコレクションは深刻な流出に直面しましたが、ドレスデンの目録と共に残された8,000点(および、元はこのコレクションに含まれたがその頃までに世界中の博物館あるいは個人所蔵に散逸したもの)は、今日も独自の記録システムから、アウグスト強王の王室コレクションの一部と特定することができます。

ドレスデン美術館(SKD)陶磁館は今日に至るまで、有田で17世紀後半から18世紀初頭にかけて作られ、当時の欧州バロック風インテリアに理想的とされた、最高級色絵の伊万里食器・人形の世界最大のコレクションを擁しています。

しかし、王の磁器製作意欲をとりわけ大きくかき立てたのは、えも言われぬ乳白色の素地(きじ)と繊細な色遣いの上絵付けによる柿右衛門磁器の、群を抜く質の高さでした。ヨーロッパ全土で”白い黄金”の秘密を探る試みが数世紀に亘ってことごとく失敗した後、1709年にヨーロッパ初の硬質磁器製作に成功したのは、ザクセンのアウグスト強王による王室磁器製作所でした。

1720年代後半のパリで、”マイセンの柿右衛門模倣品”がフランスの贋作商によって本物の日本の柿右衛門としてまんまと売り抜けられるという妙な出来事が起こります。まだ”新しく極めて難しい磁器素材”に取り組み始めてわずか20年で、アウグスト強王配下の磁器工房は、東アジア産で最も上質で需要の高い器のひとつ、日本の柿右衛門をそっくり真似る事に成功したのです。これにより、王自身のみならずヨーロッパ全土の最富裕層の顧客たちがマイセン磁器の最高級品質を確信するようになりました。

今日に至るまで、ドレスデンの柿右衛門コレクションは多くの地元、全国、そして世界中からの訪問者によって非常に賞賛されています。博物館スタッフから、そして老若問わずあらゆる観客からも愛される柿右衛門様式の象(画像)はコレクション全体を代表する大切なマスコットになっています。18世紀の目録でこの象は、柿右衛門という用語がまだ使われずに”古いインド製磁器”と記載されています。その目録記載から、合計三体の柿右衛門様式と推定される象が、”緑と赤で彩色された毛布つきの破損した一体の横たわる象”および”同じく、立姿の象二体”と記録された王室コレクションの一部だということがわかっています。私たちの展示室にとりわけ美しく飾られているのが、現存するこの立ち姿の1頭です。